グベンの「百万人の数学」の序文の中に、ナイル河の氾濫を予言することで支配力を保っていた埃及《エジプト》の僧の秘密について面白い物語がある。科学の力、その美、そのよろこび、そこにある人間性を知らせる良書の一つとして岩波新書の「北極飛行」をあげることは、恐らく今日の知識人にとって平凡な常識であろうと思う。ところが、文部省の推薦図書にはこれが入っていない。何故なのだろう。審査員の中に、そういう方面の科学者がいないのだろうか。いることはいても、投票のようなことの結果ああいう日本として自慢にならないようなことになるという事情があるのだろうか。科学が科学としての評価に立ち得ないということは文化の悲惨であると思う。
昔アインシュタインが日本へ来たとき、民衆の歓迎ぶりを瞠目して、自分がこのような歓迎をうけるのは、日本の国民全体がそんなに物理学の原理へ興味を抱いていることなのかどうかと、深いおどろきと疑問に陥った感想を語っていた。これも意味ふかく、折にふれての記憶に甦って来る印象である。
それから又或る座談会の席で、日本の婦人で科学の仕事に入った人々は明治以来例えば医者になるが医学をやるという人はな
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