子供の世界
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)所謂《いわゆる》
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或る若い母さんのうちに小学四年になった男の子がいる。一人っ子であるから、どうしても親たちの生活の目撃者となることが多い。
その子が或るとき作文を書いた。父さんと母さんが喧嘩をしました。父さんが大きい声で出てゆけと云って、母さんを外へ押し出しました。僕もついて出ました。夜で、どこへ行くことも出来ません。母さんは家の外をぐるぐるまわって、どこか入るところはないかとさがしましたが、父さんがどこもみんな鍵をかけたので入れません。やがて、母さんが大きい声で泣き真似をしてドンドン戸をたたきました。そうしたら父さんが、ばかだナと云って笑いながら戸をあけて僕たちはなかへ入ることが出来ました。みんな笑いました。そういう筋の作文をかいた。
受持の女の先生は日頃物のよくわかった、自然な心持で子供を見ているひとと思われていたが、この作文をみて、その男の子に向い、父さんや母さんは、あんたがこれを書いたのを知っていらっしゃるの、と訊いた。子供は、知っていると答えた。何と云っていらして? 子供は、
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