よくかけていると云って笑っていたと、そのとおりに答えた。そしたら、先生は暫く考えていて、でもね、もしかしたら父さんや母さんは、こういうところをひとに見られるのがおいやかもしれないでしょう、だから、この作文は上手に書けているけれども、お戸棚へしまっておきましょうね、と帳面のその頁のところだけ合わせて糊づけにして開かないようにしてしまったそうだ。
少年は、その奇妙なお戸棚と称する糊づけの部分を眺めて考えこみながら、先生、こういうの好きじゃないんだね、といった。
母さんは、子供は子供として、大人の世界におこることがらに対して、判断も持っているのに、と、糊づけに何かぼんやり惨酷さを感じているのである。
この小さい插話は、人生にかかわる幾つかの暗示をなげている。
今日物わかりのよいとされている女の先生などでも、その生活への感情は案外にひ弱くて、所謂《いわゆる》いい生活というものの絵図が水っぽいきれいごとだけで、塗りあげられていて、子供の心が直感した生活のそんなユーモアもわからないということが一つ。
子供が、先生、こういうのすきじゃないんだね、という結論から何を感じとっているかと云えば、
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