ーが一台ある。二脚のテーブルといくつかの椅子があって、鋳型職場、旋盤からの若者が四五人八時間の働きを終って楽に坐っている。初歩の文芸部員たちは多くの場合詩人である。
 ――今日は誰が読むね。
 マップからの指導者が、煙草をふかしつつ一同を見渡す。
 ――君か?
 白いさっぱりしたシャツの胸を闊達にひろげて着たちぢれ毛のコムソモールは、ちょっと顔を赧らめ、
 ――いや。
と云った。
 ――何にもないんです。
 ――ポケットの中を見せ給え。
 どっと笑う。
 ――さあ、どうしたんだ? アーシャ! じゃあ、君読んだ、読んだ!
 ――なおしてないし……自信ないんです。
 ――ここに自信なんぞ持ってる奴は一人もいないよ。
 笑い声の中に立ち上って、がっちりした体にコバルト色シャツのアーシャが、抑揚は本もののプロレタリアート詩人らしい弾力で、原稿を読みあげる。
「きられる鉄片の火花と音楽。さまざまな形で社会主義建設の骨格になり輪となり、起重機となり、鋲となる鉄の美しい力、篤志労働団《ウダールニク》はその間から叫ぶ。――生産経済《プロフィン》プランを百パーセントに! 篤志労働団《ウダールニク》は叫ぶ
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