。
市の公園へは渡り鳥が来る季節である。公園の樹の梢へつるす鳥の巣箱を小学校の子供は手工でこしらえる仕度をし、中央児童図書館では、一つの本棚が五ヵ年計画、集団農場、国営農場、その他一般農作と春の動植物についての本でおきかえられた。
――これが我々に一番骨の折れる、大切な仕事なんです。ソヴェトの子供は大人と同じ社会の中に生活している。ただ理解が単純だというだけの違いです。彼等は五ヵ年計画についても集団農場についても知らなければならず、また熱心に知りたがるんです。複雑な今日の実際問題を簡単に、具体的にどう説明するか……。問題は迅速に次々移って行きますしね、例えばソヴェト選挙の時にはまたそれに応じた本を見出してやらなければなりません。
ソヴェトではいかに文字が実際生活の理解、建設に必須な武器かということは、一ヵ月この驚くべく前進的で柔軟性に富んだ多面な新社会の中に生活して見れば忽ちわかる。
たとえば日本女は小説を書くのが本職である。だから、未来に於てソヴェトの芸術が生れるだろう畑に興味を感じ、「鎌と槌」鉄工場の工場新聞出版室内の文芸研究部へ出かけたとする。
袋をかぶせたタイプライタ
前へ
次へ
全36ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング