益に利用出来るためである。
モスクワ河が凍って、その上を絶間なく人や馬橇が通っていた。氷の穴から釣糸を垂れている者がある。黒い外套の裾からいろんな色の木綿更紗のスカートを出した女達が五六人かたまって厚い氷をわり、洗濯ものを籠から出してはゆすいでいた。何かの染色がとけて氷の中の水は緑っぽく見えた。
岸に上って見渡すと氷の上にある人間の姿はどれも黒く小さく、遠くにちらほらスケートしているものの顔だけぽっつり薔薇色である。発電所の煙突からは黒い太い煙が真直上った。
日本女は凍ったモスクワ河の景色を眺めてから、元へ戻り、或る一つの建物の入口を開けた。
床がしき石張で、古代ロシア風のふくれた円柱や重い迫持《せりもち》が正面階段のまわりにある。
事務室と書いてある戸をあけた。本。本。女。女。そして本! 中央児童図書館なのだ。児童文学は、ソヴェトの問題となってから久しい。そして、それはまだ解決されず、雑誌『ピオニェール』の編輯局が中心となり、作家と小さい読者との懇談会を開いたりした。
――ここでは、子供たちに本を読ますと同時に、いろいろ研究的な仕事をやっているんです。
監督の、おだやか
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