か?
 ――第一参考書類、技術的なもの、次は文学です。
 ――現代の作家では誰が愛されます?
 ――さあ……。勿論グラトコフや、リベディンスキー、セラフィモヴィッチなんか読まれているが――
 女党員は、考えた後、
 ――近頃は古典を非常によみます。
と云った。
 ――トルストイ、ゴーゴリ、なんかですか?
 ――プーシュキンなどもです、レルモントフも出る。
 ――国内戦を主題としたものは、一般に子供にどう受けいれられていますかしらん。
 ――特に、若いものによませるために書かれた国内戦、革命に関する文学は、一つ、共通な大きな誤謬を犯していたことを我々は感じています。それは、革命の事業を全然機械的に見ている点です。「赤」はやたらに強くて、正義のかたまりで、賢く、成功の外何も知らず、「白」はいつも卑怯で、馬鹿で、革命は玩具みたいに雑作なく完成するものみたいに扱われている。大した間違いです。革命の現実をまるでゆがめている。もっと有機的に、苦痛、困難、失敗の繰返しのうちから根気よく勝ちとった革命が描かれなければならないんです。第一、そんな赤白物語、つまりませんよ、読んだって!
 彼女は快活に笑った。階段を二階へのぼりながら、彼女は日本の児童のための雑誌、本の印刷が非常にいいと褒めた。
 ――技術的に実に進歩してます。でも、露骨に内容に歴史的要素を沢山とり入れていますね、この頁に、すっかりヨーロッパ風のよそおいをした日本の子供がラジオ組立てで遊んでいる画があると、直ぐ次に、封建時代のサムライが出て来る。日本の子供はひんぱんにそうやって封建時代へ逆転させられることを何とも感じないんでしょうか。まだ……。
 二階の読書室の赤布で飾った本台の前で、十一二歳の少年少女数人がさかんに本をあさっている。
 ――アニュータ! 別なの下さい。
 ――どうして? あんたまだそれを読みきってないよ。
 コムソモールカのよそおいをした若い図書掛がその少年に云った。
 ――本はすっかり読み終る癖をつけなさい。
 ――つまんないんだ。北極冒険のことでも書いたの下さい。
 グランド・ピアノの置いてある、プラカートと棕梠《しゅろ》の鉢で飾られた集会の広間がある。奥の空室で年かさのピオニェール少女が二人、色紙を切りぬいてボールへはりつけ、何か飾ものをこしらえていた。
 ――モスクワは御承知の住宅難で、多くの子
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