ーが一台ある。二脚のテーブルといくつかの椅子があって、鋳型職場、旋盤からの若者が四五人八時間の働きを終って楽に坐っている。初歩の文芸部員たちは多くの場合詩人である。
――今日は誰が読むね。
マップからの指導者が、煙草をふかしつつ一同を見渡す。
――君か?
白いさっぱりしたシャツの胸を闊達にひろげて着たちぢれ毛のコムソモールは、ちょっと顔を赧らめ、
――いや。
と云った。
――何にもないんです。
――ポケットの中を見せ給え。
どっと笑う。
――さあ、どうしたんだ? アーシャ! じゃあ、君読んだ、読んだ!
――なおしてないし……自信ないんです。
――ここに自信なんぞ持ってる奴は一人もいないよ。
笑い声の中に立ち上って、がっちりした体にコバルト色シャツのアーシャが、抑揚は本もののプロレタリアート詩人らしい弾力で、原稿を読みあげる。
「きられる鉄片の火花と音楽。さまざまな形で社会主義建設の骨格になり輪となり、起重機となり、鋲となる鉄の美しい力、篤志労働団《ウダールニク》はその間から叫ぶ。――生産経済《プロフィン》プランを百パーセントに! 篤志労働団《ウダールニク》は叫ぶ。――いや。生産経済《プロフィン》プランを一二〇パーセントまで! と。そして、新しい輝くトルクシブの軌道はトルキスタンの砂漠をシベリアへ向って走り、北と南の生産を結びつけた。」
題材の掴まえかたの必然を文学的に理解するだけにも、日本女は先ずСССРの中心問題である生産拡張五ヵ年計画を吸収してなければならぬ。それを獲得するにはどうするか? 彼女は少くとも読まなければならぬ。統計表と数字とで一杯なパンフレットを。絶対にそれは読まねばならぬ[#「読まねばならぬ」に傍点]のだ。若し散歩した時ソヴェト広場にある、電燈入り地図の意味を知りたいと思うなら。
СССРで一九二六年に五千七十七万千九百九十七人(四九・六パーセント)あった文盲者が一九三〇年には既に四千三百万人前後に減り、五ヵ年計画完成後は都会七パーセント、村落二〇・六パーセントまで減少するということはきわめて自然なことだ。生活そのものが、文字はパン切符と全く同じに必要で、手にある鋤ややすりと同じ社会の道具だということを教えている。ソヴェトでは大人もこうして育つのである。
――ところで小学校の上級生ぐらいの子供は主にどんな本をよみます
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