って立派に働く」こととの間に、益々かくも巨大なる矛盾があらわれている今日に於て。――山本有三氏の道義がこれまで放牧されている地域にあっては、歴史の推移につれて、従来の種類の草だけをいかに気を入れて氏の芸術論に云われているようにこちらのもの[#「こちらのもの」に傍点]にしても、カルシウムの欠乏は何となし顕著に感じられて来ている。それは、既に「女の一生」の中で允子が息子のためになすべきことと思ってしたことと、息子がなすべきことと認めたこととの間に、社会的価値の評価を示すことが不可能であったことにも現われて来ているのである。芸術論の中に云われているとおり、芸術はあるもの[#「あるもの」に傍点]を写すものではなくって、あるべきもの[#「あるべきもの」に傍点]を描き出すのであるとすれば、氏の芸術が中産階級の生活を描いた時、その思想や感情が現在あるもの[#「あるもの」に傍点]のみを写す限度に止るようなことは、決して作者としての自己に許し得ないところであろうと思う。
氏をして書かしめない外部の力があるとすれば、それは「嬰児殺し」を書いたこの作者、感想「何処に訴えん」の筆者であるこの作者に、愈々切実
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