同時に感じており、作者も亦この感じを允子の感じの中に置いて見ている。允子は、何故自分らがよい親であった筈だのに捨てられたと感じなければならないかという、最も人間の真実ある交渉の機微にふれた点へは、些も省察の目をむけていない。私はこのことをこの作者らしくない粗末さだと思う。允子は何故、子供は生れたとき既に自分から離れていたのだ、と諦観する前に、抑々人間の本質的な離反とはどういうものかと考えなかったのだろう。人間交渉に真実を目ざすのが特質であるこの作者が、どうして、允子の自分の子ばかりとりかえそうとするエゴイスティックな態度が允男をしんから離れさせたのであること、母、自分の母、ほかならぬ我母が、自分の子ばかりを庇おうとして自分が身をもって守っている友人の名を口にすべからざるところで口にしたことに対する允男の公憤。それが母であるからこそ猶更耐えがたい苦しみと憎悪を感じさせ、本質的に母を捨てた心持になったのだということを、幾万人かの母のために持前の道義的懇切さで説明し得なかったのであろう。これは、十分この作者としてとりあげられる種類の人間的徳義心の問題である。こういう徳義は、パーウェルの母であ
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