で終っているのである。
 私は、この作者の生活意識をこの作品までに高め、力あるものとした当時の若い時代の圧力というものを、実に意義ふかく感じとらずにはいられない。作者山本有三は、彼の精神をまどろましては置かない社会の刺戟と摩擦とに鼓舞されて、従来日本のこの種の小説が人情悲劇のクライマックスとしておいた限界を突破した。第一の出産に加えて第二の出産の必然を、常識の中にはっきりと据えて見せたのである。
 この作品は、少くとも同じ作者によって書かれた従前の諸作のうちでは、この作者の主要なテーマ、何をなすべきかが積極的に答えられている点でも傑出したものであることに疑いない。
 ところで、私は読者とともにもう一度この作品の中へもぐって行って見たいと思う。そして、心に印された一つ二つの質問について考えて見たい。山本有三氏に向って、赤にさえならなければという親心を客観的に批判し観察していないことを云々することは、無理であろう。そういう思想を時代の圧力として、いずれかといえばリベラルな立場を持っていた父親公荘を、通俗に中途であっさり病死させている作者の手法のかげに、この作の中途で警視庁に呼びつけられたり
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