こから先は地獄が展《ひら》けるとは思っていない。だけれども、広い曠野に立って遠い地平線を眺めやった時、その地平線に何となくひかれる心、その地平線のかなたを思いやる心は、いつも新しくいきいきとしている。私たちの祖先の人たちが地平線を眺めてやはりいうにいえない牽引を感じたのとは、また違った現代の豊富な知識と感想とをもって私たちは地平線を眺めるのである。地球というものを考える。
 常識は地球の円いことを語る。遠い地平線を眺めると人間はいろいろなことを思うものだし、思うことはその時代時代によってたいへん違うと教える。しかし、肝心のそのひかれる心の生々しさ、感じてゆく過程にいわばその人の生涯が圧縮されて内容づけられていること、人間はその心で自分たちの地球を今日の常識が理解しているところまでの現実性で我々の社会へもたらしたのであったということはめったに語らない。
 私たちの一人一人の生活の歴史は、他人ではそれをしなかったような個人としての経験をもたらすものがやはりこの常識の道を歩きながらも、かなたにある地平線にひかれてゆく心であるというのは、何と興味深いことだろう。芸術上の仕事それから科学の仕事、
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