どがとり集められている。勝気な枕草子の作者の気質は、中宮への愛情と尊敬からもその隆々とした絵姿だけで描きたかったのかもしれない。だが人間の何か忘られない姿というようなものははたして富貴の輝きに照らされている時ばかりにあるものであろうか。
 枕草子の中にこんな場面がある。
 ある朝早く、帝と中宮とが並んで身分の軽い者たちが門を出入りしたりしている朝の景色を眺めていられた。お二人が来られたので女房たちは慌しく引かついでいた夜の物などを片よせている。みんなも一緒にあちらへ行こうと帝がいわれたが、清少納言たちは、おつくりでも致しましてからといっていると、簾の外で物をいいかける男があった。軽くあしらっていると、それがかねがね清少納言の讚嘆をあつめていて地位も名声も高い美男の殿上人であったので清少納言は少からずうろたえる。その殿上人は、女の人は寝起きの顔がことの外美しいと聞いていたから見に来たのですよ。帝がいらしたうちからここにいました、といったことなどが作者の当時の官女らしい才気の反応で描かれている。
 この朝の出来事を書いているとき、作者は帝と中宮とが並んで外を見ていられる様子をただおめでたい
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