?」
「ああ」
「村からほかに誰と誰が来たの」
勇吉は自分の隣りに並んで立っている少年の方を顎で示した。
「まだ高等からも二人ばっか来ている」
そこへ、引率の教員が列の中ごろまで出て来て、
「では、これから二重橋へ行きますから。皆電車ののり降り、交通によく注意して下さい」
と大きい声で注意を与えた。
巻ゲートルの男が教員と並んで先頭に歩き出した。バスケット。風呂敷の包。トランク。勇吉のような時代ものの鞄。子供たちの荷物はそれぞれの形と色とで、田舎の暮しぶりを物語っているようで、サイには懐しい心持が湧いた。男の子たちは黙ってそれらの荷物をもって動き出した。後から跟《つ》いて歩く人々のなかにサイもまじった。
東京駅の前から、二重橋前の広場へさしかかった頃には、朝日が晴れやかにまだ活動の始らないビルディングの面を照し出したが風の勢はちっともおちず、サイの長い袂は羽織から長襦袢まで別々に吹きちらされた。一行は風にさからってうつむきながら砂利を踏んで行った。
仕切りの手前のところまで行って横列に止った。
「さて皆さん、これから謹んで遙拝し、銃後を守る産業戦士の誓を捧げて解散したいと思い
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