から、嗤《わら》われんようにしっかりやってくれ。それだけはよく頼んどくぜ。何て教育しとったと云われたんじゃ、成仏出来んよ」
窓際へ佇んで伸びをするようにしながら、
「満州事件のときにも出征したが、どうも……」
と云いかけて、後はやめた。そして暫く浮かない顔で外を見ていたが、気をとり直したようにくるりと向き直って、
「さ、みんな、朗らかに、元気を出した、出した。明るい顔を見せるもんだ」
そう云われても、娘たちの眼の色は引立たなかった。
昼の休みに、とよ子が顔色を少し蒼ざめさせて、
「とも子さん、ちょっと」
とよって行った。
「あのお守りだか、鏡だかの話、私こないだ泣いたりしたから、みなさんに変に思われているかもしれないけれど、全く知らないんですから――」
切り口上で云って、一層蒼い顔をしたままむこうへ行ってしまった。
何も彼も、何てこんがらかって妙なんだろう、サイは両方の顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6、392−16]《こめかみ》を人さし指でもんだ。
ここのしきたりで、出征の当日は門内の広場で一同送って、外に待っている在郷軍人や国防婦人会が、往来を行列でねって行くこと
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