金とを届けに行った。飛田は留守で、母親が前掛の端で涙を拭きながら礼をのべ、あなたがたのお仲間が成田山のお守りを持って来て下すったり、何か鉄で出来た鏡をわざわざ届けて下すったり、と有難がった。
「誰だか、名をききゃよかったのに」
「おばあさんにわかるもんですか、――間抜けくさくて、そんなことを出来ゃしないわよ」
皆が揃って、体操[#「体操」は底本では「休操」と誤植]の始る前、とも子は腹のおさまらない調子で、
「千人針とお餞別、ゆうべ確に届けましたが、私たちの知りもしないお守りだの鏡だののお礼までおっかさんに云われて、挨拶にこまったわ」
と報告した。
「あら! そんなら私だって黒猫のマスコット持ってったのに」
てる子が残念そうに云った。
「そうじゃあないのよ。みんなできめた通りにしないひとがあるっていうのよ」
飛田が一同に贈物の礼を云ったときも、室の気分はしこりがあって、しめっぽかった。
「ああ、愈々明日か」
図板の間をぶらぶら歩きながら、睡眠不足と酒づかれの出たような艶のない顔を平手でこすって飛田が、寧ろ早くその時になった方がいいというように云った。
「みんな、後の伍長さんが来て
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