からの小学卒業生たちが一団で撮られていて、東北も雪の深い奥から来た少年たちは絣の筒っぽを着て、大きい行李を持っている。偶然こっちへ顔を向けている少年の円っこく光ったようにとれている鼻や、おどろいたような真黒な二つの眼は、その足許におかれた新しい行李とあわせてサイの心に迫って来るものがあった。可憐なる産業戦士、晴れの入京という見出しがついている。あの三月の第四日曜にはその前の日に卒業式をすましたような少年たちが、万を越す数で地方からこの東京へ教員に引率されて来たのだ。
よくニュース映画に思いがけなく出征している息子や兄の顔が映っていて、大よろこびした話を、サイは思い出した。この子の親がもしこの新聞を田舎で見たら、どんな気がしただろう。
「ああ、ほんとに写真とろう」
サイは思わず溜息をつくように云った。
「弟がこんど日本橋の方へ来たのよ」
ここで育って、ここで勤めているてる子にその気持は通ぜず、悪気もないとおり一遍の表情で、
「いいわね、淋しくなくって」
あとは「愛染かつら」の主題歌を鼻でうたいながら、円椅子を片づけはじめた。
三週間近くなるのに勇吉はまだ手紙をよこさない。ここで
前へ
次へ
全45ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング