腰かけをもち出して、膝の上に弁当の包をのせたまま、そんな気分でいるサイのわきへ、てる子が、
「一緒にたべましょうね」
とよって来た。年の少いてる子は、快活で、弁当箱のふたについた御飯粒を箸の先で拾いながら、
「あらいやだ、母ちゃんがまたこれ入れている、私末広きらいなのに……千葉の親類がこんなものをくれるんだもん」
 そう云いながらサイの弁当をのぞいた。
「ちょっとおかずとりかえない?」
 切干の煮つけをサイは昼もたべた。きのう弁当に入っていたのも同じものだ。王子の婆さんは元からそういうことを平気で下宿人の誰にでもした。この頃は、ものがあがったというわけでなおひどい。男連は、だからじき弁当を持って行かないようになってしまうのであった。
「ね、あんたどう思う? 伍長さん、ほんとにピクニックへつれてってくれると思う?」
「さあ……どうなんだろう」
と云いつつ、サイの目はてる子が弁当の下にひろげている古新聞の写真にひかれた。
「ちょっと」
「なに?」
「その写真」
 サイが箸を持ったままの手でこちらへ向け直して見ると、それはやっぱりそうだった。勇吉を迎えに行ったあの朝、やはり上野へ着いた山形県
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