おろして、何ということなし伸して揃えた足袋の爪先が春日に白く光るのを眺めている娘。作業室の羽目にあっち向きに並んで、背中を照らされながら喋っている娘たち。ここは本を持ち込むことはやかましく禁じられていた。だから昼の休みも毎日こんな風にして過ごされる。
胸に番号のついた作業服を着たサイと弓子とは、石炭殼の道を購買の方へ歩いていた。事務室の裏手つづきで、どの作業場からも真直来られる車軸のようなところに、小さい市場ぐらいな購買がある。ボルトで締めた高い天井の梁や明りとりのガラスの埃がこの頃の陽気で目立つ。相当こんでいる三和土《たたき》の通路を二人は菓子部へ行った。ここの蕎麦《そば》ボーロが王子の婆さんの好物で、サイは時々買ってかえってやっている。
呉服部のところで、ケースの上にくりひろげてある絹セルや夏物柄の銘仙をちょっとさわって見たりしながら、
「これ、本当に銘仙なんかしら」
弓子が心元なそうに呟いた。
「私たち、折角働いてこしらえたって、この頃のものなんか何こさえているんだか分んないみたいで詰んないわ、ねえ」
月賦がきくのと時間がないのとで、娘たちはつい購買で拵えることになるので
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