年のちがいばかりでない心持で自分の様子が凝っと姉に見られていると気付かない勇吉は、支那鞄の中から一つ一つ新聞包みを出して畳へおきながら、
「山北んげの正ちゃんが拵《こしら》えがすんでから急に帰《けえ》って来た」
と云った。
「ふーん。じゃみんな大喜びだろう」
「またいぐんだって。冬のうちばっか内地の米くいさ帰って来たってみんな云ってら」
「ふーん」
勇吉が姉の膝の前へ並べた新聞包は故郷の味噌づけ、蓬餠《よもぎもち》、香煎、かき餠などであった。
「王子とここさわけるんだって」
「あっちはほんのしるしでいいよ。姉ちゃん気《き》いつけていつもいろんなもんやっているんだもの。――この蓬、※[#「餒」の「女」の代わりに「臼」、第4水準2−92−68、読みは「あん」、370−9]はいってか?」
「いたむから入れねってさ」
田舎でも砂糖は足りないだろう。サイが、あとでわければいい、とガサゴソ新聞包を片よせているところへ、梯子段の下から、
「御飯ですよ」
という声がした。自分たちに云われたのかどうか分らなくて、姉弟がちょっと顔を見合わせてためらっていると、迎えに来た女の声で、
「さ、二人ともおりて
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