ず、この二月には、夜業をつづけて二十円も国へ送った。勇吉は親身な情愛と珍しさのこもった少年ぽい眼差しで初めておちおちと姉を見ながら、
「母ちゃん、姉ちゃんに会ったらよく云えっつたよ」
「大丈夫さ。この頃は、サイさんよく続くって伍長さんが褒めるぐらいなんだもの」
田舎へかえりたくないサイの気持は、この仲よしの弟にもうまくは話せそうもない。あの村。その村のなかの家。そこでの鶏の鳴く刻限までおよそきまっている毎日の生活。思い出すと何とも云えず懐しいところもあるが、あのなかに織りこまれてまた暮すことを考えると、体も心も二の足ふんで、こっちにいたいと思えて来る。王子で二月《ふたつき》近く臥て、その間にサイは何度か泣いたが、到頭いてしまった。未来の生活というぼんやりした輪も、今ではこの生活とつづいたところで考えられるような塩梅である。
壁ぎわで荷をあけはじめた勇吉の日にやけた赤い頬っぺたや、胡坐《あぐら》のかき工合は、まだその膝の辺に藁でも散っていそうに田舎の気分をもっているが、この勇吉にしろ、やがてはその気持もわかるここの暮しの繋りのなかに、自分ではそうとも知らずに踏みこんで来た。七つという
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