子も呼ぶ家。そこに充満している両親の生活。それは宏子を引きつけ同時に惹きつけたよりもっと複雑なもので宏子を弾きのかす。だが、塾が云うところない生活というのではもとよりないのである。
 この時、カン※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]ス椅子の背に頭をもたせかけ、スウェータアの胸の下でゆったり二つの腕を組み合わせている宏子の真面目な若い顔に、皮肉と無邪気な悪戯っぽい可笑《おか》しさの混りあった笑いが浮んだ。今朝になって、瑛子は昨夜むしゃくしゃまぎれに、宏子をひと[#「ひと」に傍点]も来ているのにと云ったことを少し後悔しているらしかった。洗面所の廊下で起きたばかりの宏子とすれ違った時、瑛子は優しさのある眼付で、
「どうだい? 眠れた?」
ときき、返事を待たず、
「お前、私の洗面器をつかいやしなかったかい?」
と尋ねた。宏子は、
「いやよ、今起きたばっかりじゃないの」
と答えたが、母の気持を考えると可笑しかった。何か宏子に言葉をかけようとした突嗟《とっさ》にやっぱり母らしい文句しか出ず、ただそれを今朝は、
「おや、ほんとうにそうだったねえ」
とおとなしく結んだ。そこを考えると宏子は滑稽で
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