を受けたのだと云う。
けれども、先妻の死んだ部屋だというのだから、まだ年の若い其女は何か迷信から、そんなになってしまったのではあるまいか?
只さえ人気ない夜陰の物さびしさが、此の急な連想で驚くほど無気味なものにさせられた。
伝説に深い趣味を持って居る自分は伝説にまける。
人間の心の微妙さを信じる自分は、種々の例外を認める。
従ってひどく臆病である自分は、明けはなした窓から、際限もない夜の暗に覗かれるのはたまらない。
私は立ってシェードを押して、又よみかけの本をよみ始めた。
幾分か経ったろう、読みふけて居って自分は、いきなりバサリと音を立てながら、傍にのべた紙に落ちた虫の羽音に驚かされた。
夜更けるまで仕事をして、少し頭がつかれたとき人はひどく神経質になる、私はひどく臆病になる、
又蛾が来たのかなと思って、こわごわ見ると、何か赤い縞の小虫である。
暫くじっと止って居たがやがて急に私の胸元へとびついて来た。
驚いてふりもぎる、拍子に体が宙がえりを打って図らず見えた腹に何か白いものがついて居る。私は始めて螢だったことに気がついたのである。
私は今までにないなつかしみを
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