って行くのであろう。
不満なのか? そうではないと私は返事をするだろう。
淋しいのか?――淋しいのか我魂よ、
私は、一縷のかすかな白い煙が微風にもなびかず胸の裡を、静かに静かに立ちのぼって行くような心持を味う。
其は果して淋しさというべきだろうか
静けさなのではないか、
けれども、私は、その立ちのぼる煙の末が、淡く幽かに胸をすぎるとき、滲み出る涙が、眼に映る紛物を、おぼろにかすめさることを拒むことは出来ない。
十日
夜一時半
夜露が深く湖面に立ちこめると見えて、うすらつめたく湿った空気があけた窓から入って来る。
明日は雨にでもなるかと思って、フト外を眺めると、何か、小さく光るものが目にとまった。
私が窓の方へ目を向けた其瞬間、フーッと光ったような気がした丈で、あといくら見なおしてももう二度と眼にうつらない。
私は計らず、死にかかって居るジューの女房の事を思い出して、堪らなくゾッとして来た。
彼女は先妻の妹である。まだ年は若いのだが、彼女の姉が死んでまだ間もなく先の夫と結婚したのだが、神経病で死にそうだと云う。
雷のひどくなる晩、*を見て居て、ひどくショック
前へ
次へ
全11ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング