って行くのであろう。
 不満なのか? そうではないと私は返事をするだろう。
 淋しいのか?――淋しいのか我魂よ、
 私は、一縷のかすかな白い煙が微風にもなびかず胸の裡を、静かに静かに立ちのぼって行くような心持を味う。
 其は果して淋しさというべきだろうか
 静けさなのではないか、
 けれども、私は、その立ちのぼる煙の末が、淡く幽かに胸をすぎるとき、滲み出る涙が、眼に映る紛物を、おぼろにかすめさることを拒むことは出来ない。

 十日
 夜一時半
 夜露が深く湖面に立ちこめると見えて、うすらつめたく湿った空気があけた窓から入って来る。
 明日は雨にでもなるかと思って、フト外を眺めると、何か、小さく光るものが目にとまった。
 私が窓の方へ目を向けた其瞬間、フーッと光ったような気がした丈で、あといくら見なおしてももう二度と眼にうつらない。
 私は計らず、死にかかって居るジューの女房の事を思い出して、堪らなくゾッとして来た。
 彼女は先妻の妹である。まだ年は若いのだが、彼女の姉が死んでまだ間もなく先の夫と結婚したのだが、神経病で死にそうだと云う。
 雷のひどくなる晩、*を見て居て、ひどくショック
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