の悪いという事実は瞞着するに余り自明である。
其の気分を読んで、自分は思わず溜息をついた。そうだ。真個にそうである。
何に、彼那人が彼那事を云ったって、自分の生命の価値に何の損失も与える事は出来ないのだ、とは思う。又思うのみならず其を信じて疑わない。けれども、信じ安じるべきであるに拘らず、その不愉快さは依然としてドス黒いかたまりを、朗らかな胸中に一点の波紋を保って存在して居るのである。
馬琴もそうだったのかなと、思った。
そして、力を得たような淋しいような気がした。箇性の持って居る力と、人間の与えられた宿命的な(少くとも現今に於ては)本能が、ともに噛み合う事を又更に思わずには居られなかった。
その気持が、今逆に裏返って自分の上に返って来たのである。即ち、その誹謗が実質的な価値は持って居ないと分りつつ尚不快である如く、或る賞揚や尊敬は、又其の実質が如何に低いかを知りつつ、又或る淡い愉快と、由づけとを感じないわけには行かないということなのである。
小さい魂や、浅薄な動機からの追従も、物によってはそのわなにかからずにすむ。若し私が、貴方の御両親は、真に素晴らしい御金持で、と云われ
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