届いた。よく気をつけて、こちらでは得難い雑誌を送って下さる心持は、心からの感謝である。高い本を注文しても、見つかりそうもないものを御ねがいしても直ぐどうにかして送って下さる。
 親だと思う。生れたときから其那注意で育てられたのかということを、今特に強く思う。有難いのと畏しいのと一緒に心の中に蠢くのを止え[#「止え」に「ママ」の注記]る事は出来ない。
 数冊の本の中に、安成二郎氏の恋の絵巻という本がある。その表題に一寸母上が何故其を送ってよこされたかが疑われた、が、目次を見て、其中に自分の事が書いてあるらしいので、送られた理由が分った。
 読んで見ると、好意のある文句で、自分の未来を期待して居る文句がある。
 多分母上は其を見て、私にも送って見せてやりたいと思われたのだろう。
 フト心に陰がさした。
 翌日読んで、思わず考えに耽った、戯作三昧の馬琴の心持を、又思い出さずには居られない。
 馬琴は、何も、眇の小銀杏が、いくら自分を滅茶にけなしたからと云って、「鳶が鳴いたからと云って、天日の歩みが止るものではない」事は知って居るのである。よく分って居るのである。
 けれども、けなされれば心持
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