いう観念上の願望と結び合わされているために、現実から脱出する結果を招いて、彼の生活の孤立ととかく死に方向を見出すロマンティシズムとが生じている。美しく純一であろうとする願望に偽りはないが、作家として見れば正しさをこの世に求める創ろうとする動きの肯定に対する決定的な弱さがそこに在るのである。
「クヌルプ」(岩波文庫・漂泊の魂)には、この作家の弱点というべきものが典型を示していて、人間の生命の浪費が、当然向けられるはずの疑問もなく美化して呈出されているのである。
現代は歴史も、文学の現実に対するみかたもともに進展して来ているのだから、時代や永遠なものに対する個人の浄化の道も、ヘッセのように主観のなかでだけの解決にたよってロマンティックな雲の流れとともに漂うばかりでなく、「青春彷徨」に云われているように、「愛に溢れて最早や悩みも死をも恐れず」、「それを厳粛な兄弟として厳粛に兄弟らしく迎える」ためには、個人のうちに作用している時代と永遠なものをはっきり歴史的な関係としてつかんで、悩みも死もおそれず迎えるだけでなく、非合理な悩みと死とは、それを絶滅するために精力をかたむける人間の人間らしい光栄
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