動家の間には、性的な交渉をもふくめて女を一時便宜上のハウスキイパアとして使うことの合理化が行われた。女は、ある場合それに対して本能的に反撥を感じながら、組織内の規律という言葉で表現されたそういう男の強制を、自主的に判断する能力を十分持たず、男に服従するのではなく、その運動に献身するのだという憐れに健気《けなげ》な決心で、この歴史的な波濤に身を委せた。性関係における自主的選択が女に許されていなかった過去の羈絆《きはん》は、そういう相互のいきさつの間に形を変えて生きのこり、現れたのであった。
 大衆の組織が、短時間の活動経験を持ったばかりで、私たちの日常の耳目の表面から退潮を余儀なくされて後、その干潟にはさまざまの残滓や悪気流やが発生した。いかにも若い、しかしながらその価値は滅すべくもない経験の慎重な発展的吟味のかわりに、敗北と誤謬とを単純に同一視し、ある人々は自分自身が辛苦した経験であるにかかわらず、男女の問題、家庭についての認識など、全く陣地を放棄して、旧い館へ、今度は紛うかたなき奴となり下って身をよせた。
 しかし、若い世代は一般的に年齢が若いだけの必然によって、そういう歴史の上での
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