国へかえってしまおうとしている少年少女たちがまじっていただろう。
 故郷はそのようにして帰った息子や娘をどんなに迎えてやることだろう。あのおそろしい人波の底には若い生涯を蝕んだ悲哀と不安とが流れていたにちがいないと思われる。
 空気の清純な田舎に育った青少年は結核菌に対して免疫が体内に出来ていない。生れたままの美しい肉体は病菌には非常にもろい。田舎の子は丈夫だ。田舎暮しからみたら東京の生活は比較にならないほどいい、と云われる言葉は、都会の空気に代々馴れて、結核なども陽性反応を示す体質になっている人々の放言である。
 勤労青少年たちの体はよくない。中国地方の或る工業地帯が故郷である若い人が、この間の徴兵検査で、一年前肺炎をやっている体で甲種になって、おどろいている。自分がその体で甲種になったおどろきは、同じとき裸になって並んだ工場の青年たちが余りひどい体をしていたこととの対比で、一層深刻にされているのである。
 新しい国民生活への動きは、この頃急に目立って来た。贅沢の排撃は結構だが、国民の比率で云えば贅沢という贅沢をしている人の数よりも、例えば無言のうちに都会の隅々で健康を破壊されて行っ
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