械工場、化学工場などに働く少女工は三人に一人、或は二人に一人の割合で病気にかかっているのである。
 東京の街をすこし歩けば誰にでも判るように、五百人以上も働いている工場などでない小さい下請工場の数は実に夥《おびただ》しい。調査の手のゆき届かない、職工さんというより徒弟じみた条件で働いている少年少女工の数はどれ程だろう。そして、その稚い成長盛りの肉体に医学の鏡が向けられたら、果して何割が健康な体をもっているのだろうか。
 雇主たちは、働いている人々が病気になると三ヵ月は置いておくそうだ。健康保険は三ヵ月医者にかかれることになっているから。その期間がすぎると、結核でも決して結核とは云わず、脚気だから故郷の土を踏めば癒ると国へかえしてしまう。元より病勢はどしどし進んで、若い命は故郷の家へ悲しみと病菌とをのこして死んでしまうわけである。
 上野の駅頭に密集した産業戦士たちの盆帰りの写真は、一方でその記事をよんでいる一般の人々の胸に、どんな感想をもって迫っただろうか。バスケットや小鞄、風呂敷づつみを下げ、汗にまびれ、気の揉める心配そうな顔で改札口の方へ首をのばしている群集の中に、何割もうそれぎり
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