こで腰を据えて新領野をひろげるように独創性や機智を発揮しようという気にはならないのが普通だと見られる。小さい買物の範囲でいくらか羽根をのばした気慰みをしつつ、女の幸福というものへの二度目の疑問を抱きはじめるのが、非常に多くの例ではないだろうか。
 若い娘さんが職業についていながらその職業の上におちつけず、いつもその外へ目をくばって、何となく不安そうにして絶えず何かを求めるようにしている心理は、極めて微妙に現代の社会の矛盾を語っていると思わずにいられない。男は職業に責任をもってそれで生活してゆく実力がある。けれども女は、その能力のないものとして、屡々《しばしば》対比されるけれど、若い娘さんが職業に落着き、そこで発展をとげる気を持つ迄に到らない心理の理由は、女の天賦にその能力が欠けているからであろうか。そうとばかりは思えない。職業をもち、そこで成長してゆきたい欲望と、恋愛し、結婚し、母となってゆきたい欲望とは、本来女の生活力の綜合された二つの面として実現されてゆくべきだのに、周囲から女への要求が、二つを綜合した自然な内容で出されることは実に稀有の例外でしかない。社会の一面の力は男の習慣がそ
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