すべきであろうか。それとも、そこに私たちの生きる社会の性質が反映していることを思うべきものであろうか。

 野沢富美子さんの『煉瓦女工』は七篇の小説を集めた短篇集である。題が示しているようにこの二十歳の作者の世界は貧苦と病と労働の世界である。好評であることが十分にうなずけるつよい迫力をもった、生々しい筆致で長屋生活の「隣近所の十ケ月」その他が描かれている。この作者は、はっきり婦人作家として立ってゆこうとする自分を自覚している。その自覚の上でこの小説集の後記には「自分の本が出るというのは良い事だと思う。それはペンに全力を尽くす者にとっては出発の道が開いたようなものだから」というよろこび「と同時に小さな不安が来た。それは本を出した後で自分がどうなるかということだ。私は私の不安に負けたくない」とも語られているのである。
 この若い作者が、小説なんか何にもよまず直木三十五を読んだきりであるということが紹介推薦の言葉の中に強調されているのは、私の心にのこることである。そして豊田正子の綴方が世に出されたときも、周囲のひとは彼女が文学的なものに全く遠いということを特に強調して述べていたことを自然のつ
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