ろ傑作といわれている文学作品はかつて同じ人生の局面を描いたが、オオドゥウが描いているような情感と気魄とでは描かなかったと思う。
オオドゥウの作品が、ある内部的光明と透明さに貫かれ、その美で読者を打つ理由を、彼女の夢想と苦悩とから生じたものとして説明されているが、私は、苦悩というものに対するオオドゥウの驚嘆すべき勇気、不屈さがあったからこそ、あの光明と透明さとが彼女の精神を輝かしたのであると信じる。苦悩に面して慎ましく、しかも沈着で勤勉にそれを克服してゆくオオドゥウの人間的品位は、すでに小さいマリイの生きかたのところどころに閃いており、意地わるな院長にわざと辛い農園へやられる場合の威厳にみちたといえる程の若いマリイの立ち姿にはっきり現れている。
若い敏感な読者たちは、マリイがアンリイを見知り、心をひかれ、だが破局に終るまでのマリイの心の推移から、どのようにねうちの高いものを学んで来るであろうか。アンリイがデロアの息子であると知って、心から愛するエエメ教姉の話をしたことを愧《は》じる心持、アンリイとの訣別、デロアのところを逃げて来るところ、ここには貧しくよるべなくお針女はしているが、決
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