それは社会の事情によって変化をするということを返事をしたわけです。
 私がソヴェトにいた期間、私は全然政治的な関係はもっておりませんでしたし、外交官でも、新聞記者でもありませんでした。ただ一人の小説を書く女として暮しておりましたから、パンもバターも特別な便利で買えるような条件はありませんでしたし、いろいろな食物にも本当に困りました。特権がありませんでした。普通のソヴェト市民よりもっと能力がない、労働組合にも属していないものですから。だから沢山の不便をして過ごしましたけれども、それでもなおソヴェトの生活が私の一生に大きな影響を与えたのは、いまその人がソヴェトへ捕虜になって行って暮してみて、何故日本人というものは利己心がこんなに強いのであろう、という疑問をもちはじめたのと同じモメントが、反対の側から与えられたからだと思うのです。

 憲法や民法が改正されたについて、この頃はよく家族の問題が出ます。婦人にとっての家族問題――私、女でございますから大変直接なのですが――結婚の問題、親子の関係は、いろいろ複雑な問題を起します。例えば夏目漱石の小説ですが、その主人公は、インテリゲンチアですが、本当
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