変ったって、人間が人間である以上は変らないというのです。生存競争の慾望、所有慾、そういうものがある以上、社会制度が変っても人間は変らないとおっしゃる。ここのところを、私たちは本当に考えてみたいと思うのです。本当に人間に本能があるからには、どうしようもなくて、変れないものでしょうか。ギリシャ神話の時代から、人類が考えるという最初の努力をしはじめたときから、追求しつづけて来たのは幸福に生きたいということだったと思います。この動機の上に、これだけ人類の歴史は長いながい間を経て、よりよい生活方法の発見に努力をして来たし、発達を遂げて来ております。人間のより快よく生きようという努力は、じつに驚歎に価します。このように生きる本能、自分らの生活を幸福にして行きたいという本能はたしかに強烈です。
けれども、それならば、そういうつよい、幸福に生きたいと思う本能が、どういう形で、私たちの生活にあらわれて来るでしょう。幸福に生きたいという本能が原始的にあらわれて、私は私の気に入った着物を皆さんから剥いで来るでしょうか。決してそうじゃないのです。現代の私たちは、少くとも個人の幸福の安定はただその人々だけの問
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