少いという条件がありました。ピエール・キュリーが真に天才的な科学者であったということのほかに、ピエールの父親である人――キュリー夫人のしゅうと[#「しゅうと」に傍点]である人が、嫁のために子供の食事や、ねかしつけることをたすけたという話は、わたしども女の心に忘れられない印象を与えています。アメリカ映画のシスター・ケリーをみても、アメリカではじめての婦人開業医ブラックウェルの話をよんでも、科学における婦人の能力のために闘わなければならなかった様子がはっきり分ります。日本は、封建的偏見と闘いながら、婦人が自身の科学的技術を確立させてゆかねばならないという第一期的状態にあります。そしてその闘いは、現代において二十世紀はじまりのヨーロッパにおいてのように、個人の偶然もっている条件――才能と環境――だけに頼らず、科学技術者として勤労人民の全戦列の一翼にむすびついて前進しなければならないという時代に入っています。
 日本に資本主義社会でみられるような個人的な才能の開花、個人的な成功とその名声をたのしむような女性の経験が乏しいために、「民主的」と云われる現代では、なんとなく個人的な開花を渇望する気分
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