映り、伸子は深い興味を感じた。
 寄宿舎へ来る男の客は、下の広間でしか会えない。許可を得て準備が出来れば、八階の食堂で一同と食事することが出来た。伸子が来てから、そういう客は数人あったが、どの人もまるで田舎者のように間抜けて見える若者ばかりであった。また、そうでもなければ、こんながやがやした、不味《まず》さこの上ない寄宿舎の食事に来はしないだろう。招ぶ方も、招ばれる方も、都会馴れぬ人達らしかった。それに、食堂掛の老嬢の好意か、客卓子は、いつも定って部屋の一番入口近い端にあった。幾十という、すばしこい、笑いたい盛の若い娘の視線が蜘蛛の網のように一点に注がれる。いやでも、伏目がちにしゃちこばり、聖餐にでもあずかるように坐っている若者を見ずにはいられない。さし向いで、これも、言葉尠く、背中へ神経を吸いとられている女の方にとっても、楽しい食事とは云い難いに違いない。雀斑《そばかす》のある、本当に拵えたての棕櫚箒のような頭をした若者が、ひどく自分自身をもてあまし、重大な問題でも審議するように物を云っているのが、伸子には少し気の毒に思えた。
 伸子は、豊子と食堂を出た。彼女達は、昇降機の前で立ち止
前へ 次へ
全15ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング