った。
「――どうせすぐまた降りなけりゃあならないから、もう下へ行っていたいわ」
「それでもいいわね」
 七時四十分から、下の客間で集りがあることになっていたのだ。
 集りは三十分ほどで済んだ。あけ放した観音開きの扉から、浮かない顔付の娘達がぞろぞろ出て来る。先へ出た伸子は、豊子を待った。豊子は、今年卒業する学生の一人と話しながら来た。
「さようなら、じゃあまた明日。大丈夫ですよあのテストは、相手によって難しいんですもの」
 伸子は、豊子と並んで歩きながら云った。
「私不愉快になっちゃったわ、何だか」
 豊子は、冷静な表情で伸子を見た。
「――誰も好きな人はいないわ」
「デリカシーだの何だのって云う癖に、ああいうことは平気なのね、厭だわ」
 ミス・ハウドンは、学生達を集め、最近必要と思われた種々の注意を与えた。人目を牽くから門のところに何時までも立っていてはいけないとか、たとい大好きな人とでも cheek to cheek dance は踊らない方が見よいとか。一つあっちこっちで忍び笑いを起した注意があった。よく愛人に誘われて芝居や夜会に出かける人がある。十二時過て帰って来るのはよいが
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