、広間まで相手に送りこまれても別れきれず、隅っこに立ってまたそれから永いこと囁いたり、何かしている。それはどうもいい癖とは云えない。
「それまでにたっぷり楽しんでいらっしゃるのですから、これからそれは誰でもやめて下さい。玄関にいるミスタ・ワーボーンにしたって多分余り嬉しくはないでしょうしね」
 ワーボーンは、六時頃から玄関番を勤める、クレマンソーのような髭の、大きな爺さんであった。彼は、つい傍で、幾組もの若者たちが縺れ合っているのを擽《くすぐ》ったく感じながら、その堂々たる髭をぴくりともさせず、帰舎時間の記入された外出簿を眺めて坐っていなければならない。――寄宿舎らしい漫画的おかしさで、伸子も笑った。
「さて、もう一つ申すことがあるのですが――洗濯場で昨日シーツを一枚めちゃめちゃにして突込んであるのが見つかったのです」
 ミス・ハウドンは、後を振向き、彼女の秘書のような役をしている学生の一人に何か合図をした。
「これなのです――誰か心覚えがありますか」
 白いブラウズを着たその娘は、指図とともに腕一杯に敷布を一同の前に拡げ示した。敷布は、真中に大きい汚染があり、きつい火|熨斗《のし》を
前へ 次へ
全15ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング