掛けそこなった焼けこげがついている。伸子は、何だか正視するのが辛いように感じた。
「あなたがた、若しお母さんの家にいらしったら、シーツをこんなにして知らん顔でいますか? そうではないでしょう? 私はここのお母さん役なのだから、家にいると同じに振舞って欲しいのです」
ひどい様子の敷布は、煌々としたシャンデリアの下で凝っと拡げられたままだ。
「どうか隠しだてはしないで下さい。――本当に心あたりのある人はありませんか」
伸子は、余りいつまでもきたない敷布を見せられるので、次第に苦々しく腹立ちを感じた。何故そんなことになったか、誰でも見当はつく。二十越した娘ばかりなのだから、どこかに当人がいれば、簡単に言葉で云っただけで充分思い知らせる目的は達すであろう。あくどいやりかたが、伸子に強く嫌厭を与えた。シーツをつくねて置いた娘より、そうやって、威儀を整えた厳しい顔でそれをわざわざ拡げて見せて平気な者の方が、彼女には遙に憎らしかった。
「――思い当る方は、それでは後ほど私のところに来て下さい」
ミス・ハウドンは、軽く頭を動した。やっとシーツがしまわれた。吻《ほ》っとした空気が一どに感じられた。
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