作)を持っていることは、一つの誇りであるが、この「チボー家の人々」はその後の世代の姿を、描かれている内容によってばかりでなくその描きかたにおいても語っている一つの傑れた収穫である。ジイドの「贋金つくり」と引き合され、これらの二つの作品と、二人の作者の態度が全く対蹠的であることで目立つというのは尤もであろう。「贋金つくり」において作者の興味をとらえているのは、人間性の時代的なこわれかたとその各破片のままの閃きの姿である。「チボー家の人々」を通して時代を描こうとするデュ・ガールの関心は、時代の矛盾激突によって破壊されようとしても猶こわれまいとする人間性の意欲とその本来の一貫性に向けられている。このような態度で人生にうちかっている作者の心持が、描写の含蓄ある手法や構成における善意ある緊密さに、統一をもって滲み出しており、その面でも「贋金つくり」と対比的であると感じられる。心をとらえて真面目にする力はそこから湧いていると思われる。「少年園」におけるジャックの苦悩の描きかたは感銘的で、人間の或る耐えがたき瞬間口をあけるが、その悲しみと心の痛みとを訴える声さえ出ない苦悩にうたれる、そのような刹那を
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