次が待たれるおくりもの
宮本百合子

「チボー家の人々」第一巻「灰色のノート」と第二巻「少年園」とを、ひきいれられる興味と文学における真面目な労作の快よさをもって読んだ。この最初の二冊を読んだ人々は一層熱心に第三巻を待っているのであろうし更に第十巻全部が滞りなく完訳されることを切望しているのであろうと思う。山内義雄氏はフランス文学のうつし手として、これまでも多くの意義ある業績を示しておられるが、この「チボー家の人々」は訳者の努力をも記念すべき位置におく種類の作品であると思う。
 今の日本には、十数年来なかった程長篇小説が氾濫しているが、そのような今日にあって、「チボー家の人々」を描き、一九一四年にいたる時代を描こうとしている作者ロジェ・マルタン・デュ・ガールの人生態度の慎重さ、誠実さ、文学作品としての完成度のほんもの工合が、特に解毒剤のような清涼さで読者の感情にふれて来るというのは、その反面に何を語っているのであろうか。構成も念いりであって、磨かれ削られ、危な気がない。描写の手法も長篇小説の分野に或る生新さを与えるものをもっている。フランス文学が「ジャン・クリストフ」(ロマン・ローラン
次へ
全3ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング