上へ、友愛だの信義だの自由だのという文字を鋳りつけることは、云って見れば何とたやすいことだろう。
自分がほかならぬ一人の女として、この世代のうちに生きているということに、私は新たな情熱を覚えた。西洋のどこともちがっている日本。而も絃《いと》のように張られていつも敏感に震動数高く世界史とかかわりあわずにはいられない日本。いつも笑っていると云われるその日本の女の骨惜みしない心の顔は、自身の言葉として何をのぞみ何をもとめているだろう。私の命のなかにその声が響いていないと誰が云えよう。
更に十年経って、今日の世界の現実は、窮極における人間の理性というものを益々信ずべきことを私たちに教えていると思う。重畳する波瀾をとおして、もし私たちが女としてただ一つの善意さえ現実に成り出させようと願うなら、いつの時代よりも世紀の紛乱におどろきひるまない判断と、沈着な意志とが求められていることは、明かではないだろうか。
こうして私たちは少しずつ少しずつ、時にはのぼった山道をまた下るような足どりにも耐えて、自身の成長と歴史の成長とを学び、もたらして行くのだと思う。
[#地付き]〔一九四二年一月〕
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