私の青春時代
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四七年六月〕
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 わたしの青春について語るとき、そこには所謂階級的なヒロイズムもないし、勤労者的な自誇もない。そこにあるのは一九一四、五年から二三、四年にかけての日本の中流的な家庭のなかで、一人の少女が次第に人間としてめざめてゆく物語があるだけである。それから、一人の少女が若い女となってゆく過程で日本の当時の自由主義がどうその成長に影響し、またつよくのこっている封建性が、どう反作用を加えたかという物語である。
 いまから三十年もむかし、中流の家庭では一人二人の家事手伝いの女をもっているのが普通であった。私の育ったうちにも一人二人のそういう女中さんがいた。その頃、さんづけでよばれることはなく女中とよびすてられた。
 その女中と、中流の子供たちの生活は、親が知っているよりも遙に互に近くむすばれていて、ある意味では主人と親とに対して、共通の秘密をもっていた。上流の子供には、教育ということをわきまえたおつきがつくが、中流の家庭で、女中を一人
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