野の図書館へ行ってしまう。女学校の四年生になって、学校の比較的豊富な図書館がつかえるようになるまで、わたしの知識慾は、惨めな状態におかれた。図書館と、うちで買う文学の本をよむこと。わたしの少女期の危機は、それをよすがにして、辛うじてまともにすごされたのであった。四年生になって、本当に文学がすきときまってから、あぶなっかしさはよっぽど減った。自分の熱中し、うちこむ目標がきまったから。
わたしが、初めて作品を発表したのは十八歳の時であった。女学校を卒業したばかりの少女が、作品を発表されたということは、ほんとうに複雑な人間テストであったと思う。こういう早く咲いた花のような立場はそれからのちのほとんど十年間を自分のぐるりをとりかこむ環境とのたたかいにすごすことになった。自分に小説をかかしたその家庭の積極の面とともに作用する消極の面――わかい天才主義、独善の傾向、型にはまりやすさとたたかうと同時に、一定の仕事を生涯の仕事ときめた若い女のもつ、結婚、家庭生活と仕事との間の板ばさみの苦しさを経なければならなかった。そしてそれは一九三〇年に、プロレタリア文学運動に参加するようになって自分の矛盾の本質
前へ
次へ
全5ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング