ているのである。
 一応もっともなことのようであるが、私の心には何かしっくりしない感情が湧いた。学校教員・警官の遺族扶助料というものが、はたして子供まである一家の生計をささえてゆくに足りるほどの額であるだろうか? そうでないことの実際の証拠は昨今の学校教員の桃色内職事件でも明らかである。また諸官庁は元より、会社でもタイピストさえ年齢十七八歳、両親の家より通勤の者にかぎり採用が現実の有様であり、男の就職上の困難は、その困難が最も少い大臣の息子たちの新米勤人姿が、写真入りで新聞の読物となる世の中である。男がきっと女を喰わせ得、また女が独立心さえあれば年にかかわらず仕事がもてたというのは昔のことである。今日の切迫した社会的実相に頓着なく、再婚すれば扶助料とりあげと定っているから偽善的な内縁関係も生じるのであろう。市は赤字だといって市電従業員の賃銀を下げたが市会では暴力までふるって市議歳費値上げを決定した。府の扶助料とりあげの記事が何となし、その実例を読者の脳裡に思い出させるのは何故であろうか。

        五 女を殴る

 先日、あるひとが百貨店へ行って買物をしていたら、ついそのわきの
前へ 次へ
全11ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング