問題になった。肩させ裾させの虫の声は、壁も生乾きの家を争わねばならない幾百万の店子の耳にいかなる秋を告げるだろうか。

        三 代用食

 このあいだ都下のある新聞の投書欄で、代用食について一くみの応酬が行われた。
 はじめ投書した某氏は男で某紙の家庭欄に紹介されている代用食の製法にしたがってためしてみたらたいへんどっさり砂糖がいった、砂糖の不足がちな現在ああいう代用食は実際的でないから一考を要するという意見であった。するとそれに対し某夫人が署名入りで抗議をなげた。現在の砂糖の配給量である一日あれだけの砂糖を、代用食のためにつかったからとてやりくれないわけのものではない。よしんば実際にやりくれなくても、今日の銃後精神のためにそんな苦情をいうことは間違っていると力説をしたものであった。ある評者がその夫人の文章を女でなくては書けないひどい文章であるというのをきいた。
 私たち女は女でなくては書けないような非常識な文章があり得るということについてまじめに自省しなければなるまいと思う。台所のことは男に分らないといったのは昔のことで、この頃の一般家庭の良人や父親は幼児の粉ミルクのため
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