あれども人の子に住居なしになるかと案ぜられる折から、厚生省が適正と見る家賃のわり出しだと、これまでよりあがって畳、一畳四、五円になるというのでは不安が迫ってくる。もとは坪百円で建った家が今は二百円かかるという厚生省の意見はもっともだけれど、家というものは三年か四年すれば元金は償還すると常識では私たちに教えている。今回厚生省のきめる家賃は、一つ一つの新建家屋について何年目かには引下げを条件としてのことなのだろうか。それとも、ずっとそういう方法できまるわけなのだろうか。店子が家賃を払ってゆくのは三年か四年のことではない。借家で産湯をつかった大多数の国民は、借家から自分の葬式をも出さねばならない。みすみす大家に損をしろというようなことはなり立たないという厚生省のいわれたのは、大家にとって慈父の言であろうが、厘毛をあらそう小商人さえ配給員となって、三十五円、四十円の月給とりで国策にそおうという今日、家主も国家的任務を自覚させてもらうことについて異議はなかろう。
 目黒のさんま[#「さんま」に傍点]という愛すべき日本の落語は時代とともに変遷して、今年のさんま[#「さんま」に傍点]は切ろうか丸かと
前へ 次へ
全11ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング