輝かしい見本である。
ゴーリキイの文学的成果は非常に豊富である。一九三二年前後に邦訳で出版された全集だけでも二十四冊あり、なおその後の文学的活動は更に数冊の本となって現われるであろうと思う。彼から学ぶべきことは非常に多い。中でも彼の全生涯を回顧してわれわれに大きい暗示を与えると思うのは、彼の初期の作品に現われていた誰知らぬものもないロマンティックな要素と、それの発展の過程である。
ゴーリキイが沢山かいている自伝的要素の多い諸作品でよくわかるように、ゴーリキイがものごころついてから一九〇一年頃に至るまでの期間は、彼にとって実に苦しい、まだ方向のはっきりきまらない闘争の時代であった。生れつき屈辱に対して敏感であり、人間生活の明るさ美しさをもとめていた若いゴーリキイが現実生活の中で日夜自分の周囲にみるのは当時のロシアの民衆がおかれていた無智と泥酔と、おびただしい才能の浪費とであった。
彼はそれらのものとその性根において妥協することが出来なかった。また或る種の人々のように工合よく屈辱に自分を馴らすために物わかりのよい人間に自分を作りなおすことも出来なかった。さりとて当時の若いゴーリキイに
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