々とは全くちがう晩年をおくった。かれが一九三二年の文学生活四十年祝祭を記念として、ついに大衆の党の組織に結びつけられたこと、それから後の四年間にゴーリキイがおこなった文化・文学的活動のひろいこと、確信にみちていること、若々しい新社会への期待と愛に輝いていることはどうであろう!
 ゴーリキイはシェークスピア、ゲエテなどと決定的にその本質を異にした完成をとげた。一八九〇年代のロシア文壇に初めて大衆の中に蔵されている人間的精力、文学的能力の可能性の強大さを印象づけながら立ちあらわれたゴーリキイは重苦しい反動時代、かれにとっていろいろの点で理解が困難な点をもふくんでいた「一九一七年」等を経て、どこまでも大衆の発展・建設とともに自分を拡大し、晩年のゴーリキイはまったく大衆の最も尊敬すべき代弁者となった。
 かれの才能はかつてその個人的な豊富さで世界に注意を促したが、晩年のゴーリキイはソヴェト同盟という歴史に新たな人類の社会的地盤の上において、個人的才能というものが如何ほどの社会性・国際性において実りうるものであるかという典型をしめした。これは、文学の世界においてゴーリキイによって始めて達せられた
前へ 次へ
全12ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング